未経験プログラマーの雑記

元個別指導塾運営者、現プログラマーによるブログです。教育や自身の学びについて発信していきます。

私が自他ともに「天職」と認めた教育業界を辞めた理由

 就職活動で教育業界、中でも個別指導塾の会社を考えている人の参考になれば幸いです。

 私は大学生の講師アルバイトから数えて9年間ほど、個別指導塾のスタッフとして働いていました。大学生講師の頃から同僚と教育について酒を飲みながら話し合い、時には言い合いになりながらも「お前は教育系の仕事に向いてる」「この仕事が天職」と言われ、自分でもそう考えていました。

 

 大学の教育学部に通っていたわけでは無く、教員免許も取っていなかったため、一時は銀行や証券などに就職しようと考えました。ただ、就職活動中に話を聞きに行ったどの会社も「この仕事を自分は面白く感じるのか?」という疑問が消えず、結局学習塾の会社だけに絞り、数社からの内定を得て就職しました。

 

 社員として塾の運営に携わることは、アルバイトの時とは印象が異なり、中でも保護者とのコミュニケーションは慣れるまでかなりストレスが溜まりました。厄介な保護者やクレーマーが多かったわけではなく、単に親と話すことに慣れていなかったことが原因です。ただ、3年目にもなればかなり場数を踏み、特にストレスにも感じなくなりました。

 

 新規の問い合わせへの対応、体験授業後の入学案内、教材の発注、イベントや講習の申込書の回収、生徒への進路指導、保護者への進路アドバイス、アルバイト講師への研修など、社員としてやるべきことはアルバイトと比べて本当にたくさんありました。だからこそ生徒の成績アップや進路達成時は心の底から嬉しく、やりがいもありました。

 

 私が働いていた会社は塾業界の中でもかなりホワイトで、講習の時期を除いて残業はほぼ無く、むしろ残業していると「早く帰れ」と電話がかかるほどでした。(アルバイト講師と勤務後に食事をした帰り道、他の塾がまだ仕事をしているような状態でした)

 

 やりがいも感じ、会社もホワイト。じゃあ何も文句は無いのでは?と思われそうですが、一番の悩みは「質の高い個別指導塾運営」と「ホワイトな教室運営」との抱える矛盾を解決出来なかったことにありました。

 

 社員に対して勤務時間を遵守するよう促していたその会社は、アルバイトにももちろん勤務時間を遵守するよう徹底していました。その結果、次の授業で使う教材の準備や予習が不完全なまま帰宅し、およそ質が高いとは言えないような授業を行ってしまう講師が少なからずいました。

 

 もちろん「授業をする時には最低限ここまで準備するように」と伝えてはいましたが、担当生徒が多い講師などは物理的に不可能でした。

 

 であれば家で予習をしたり、勤務時間よりも早く出勤させたり、勤務予定日ではない日に出勤させる、という方法しかなくなります。家で予習はまだしも、他の2つは上司である私から言ってしまうのは絶対にアウトだと思い、一度も言ったことはありません。(自分自身がアルバイトの時はやっていましたが…)

 

 私は教室責任者を任されており、他の教室の責任者と話す機会もありましたが、「アルバイトが欠勤する時は代わりを本人に探させるべき」「アルバイトの業務に不備がある時はバイトが無い日であれそのアルバイトに出勤させてやらせるべき」などなど、私の基準で言えば明らかにブラックでした。

 

 ただ、そうしたアルバイト講師の不備や準備不足を補うため、私自身が授業のフォローに入ったり、授業で使用する教材の準備などをすることに、かなり疲弊していました。私の勤務していた教室の講師は全員かなり協力的で素直だったのでそれで済みましたが、勤務態度の悪い講師が多く務めている教室であれば、もっと早く限界がきていたと思います。

 

 教育系のアルバイトを志望する人の中には教育に対して本当に熱心な人もいます。ただ、「社員に強要されるでもなく自主的に授業の質を向上させるために目に見えて努力しているアルバイト」は多めに見積もって3割ほどです。

 

 講師自身が熱心なわけでもなく、講師の指導力を伸ばすための十分な時間が取れるわけでもない状況。そんな中、大事な子どもを預けるかどうか迷っている保護者に対して「うちの講師は非常に熱心で、指導力も高いです!」と自信満々に言う(ように見せる)ことが、私にとって大きな負担でした。

 

 その負担を減らすためにも、罪滅ぼしのつもりで、私自身が生徒や保護者に出来る限りのフォローをしました。気に入っていただき、長く通っていただけるご家庭が非常に多かったのがせめてもの救いです。

 

 プライベートな事情もありましたが、教育業界を離れようと決意したのは、結局のところ、罪悪感に耐えられなくなったことが原因でした。

 

 大切な子どもの人生を左右する大事な環境を提供出来ていないのではないかという不安。その不安の種をどうにか無くそうと考えても考えても答えが出せず、日々自分自身が自分の教室の状況に対して不満を持ち、最終的には「こんなものだろう」と妥協し、目を逸らすことすら考え始めてしまった罪の意識は、「天職」と感じさせた業界から離れるきっかけとしては十分でした。

 

 おそらく、自分自身が講師として働くのであれば教育業界にもまだ居場所はあるなと思いますが、これを機に一度他の可能性を考えてみようと思い、今の所教育業界での就職は考えていません。

 

 私なりの考えですが、人を教育するための能力はすぐには身につきません。熱意も無ければなおさらです。さらに自分は社員、講師はアルバイトという状況で、講師としては「1コマあたりいくらもらえる」というふうにしか捉えておらず、「生徒のために」とは思っていない可能性すらあります。熱意の無い講師をどんどん辞めさせることも出来なくは無いですが、代わりの講師がすぐに見つかるわけでもなく、人手不足に陥る可能性もあります。

 

 もし個別指導塾の会社へ就職しようと考えている方が、私のように「熱意のある学生講師だった」のであれば、大多数は私と同じような道をたどるか、自分の教室をブラック化し、講師に無理を強いながら生徒や保護者に満足してもらうかのどちらかではないか、と思います。

 

 精神的に健康な状態で個別指導塾で働きたいのであれば、学生講師としての経験はもしかするとマイナスかもしれません。妙に授業の質などへのこだわりが強くなり、そのこだわりがストレスの元になってしまいかねないので…。

 

 ここまで書いておいて今更ですが、教育自体は今でも私の中でかなり強く惹かれるテーマです。また、9年間働いたことで得たことも多々あります。コミュ障だった私が対人でしっかり意見を共有出来るようになったのは、間違いなくアルバイト経験のおかげです。

 

 教育業界への就職を考えている方、もし私の体験談を読んでも気持ちが変わらないなら、ぜひチャレンジしてみてほしいです。その時は、非常に難しいことですが、自分が無理しすぎることもなく、講師や同僚に無理をさせるわけでも無いやり方で、多くの生徒や保護者に感謝されるような教室作りをぜひ実現してほしいです。

 

 学生としてアルバイト講師をしようかと考えている人や、今まさに講師として働いている人であれば、「お金のため」でも「教室のため」でもなく、「目の前の大切な生徒のため」に、常に自分の全力を出してあげてほしいです。そうすることが、私の知る限り「教育」の楽しさを知る一番の方法です。

 

 これからITがさらに教育の現場に利用され、ペーパーレス化が進み、教育の現場で必要な労力が削減され、教育に関わる人が思う存分教育の楽しさを感じながら働くことが出来るよう、私なりに出来ることを探していきます。